2. 農林水産業と国土の安全保障
農林水産業の功罪
森林の水源涵養や二酸化炭素吸収機能、農村の景観など、環境保全等の観点から、第一次産業の持つ多面的機能が再評価されています。また、ゼロ・エミッションが世界的な課題となっている中、再生可能な資源として、木や繊維など農林水産業が生み出す自然素材が注目されています。
「生命の安全保障」を目指す暮らしも、実は、農薬や化学肥料を排除した有機農業や、輸入木材ではなく、地元の森林を守りながら住宅用木材を育てる林業など、「国土の安全保障」を中心とした農林水産業があってこそ実現するものだといえます。
しかし、医・食・住と同様、農林水産業にも、有害化学物質汚染が浸透しているのが現状です。農業の生産現場だけではなく、林業においても、植林地の下草刈りのかわりに、あるいは、マツ食い虫の防除として、除草剤や殺虫剤が散布されることが少なくありません。また、日本の森林には、労働者や人件費不足などから、森林を維持するための間伐(間引き)ができず、荒廃するままに放置されているところが多くあります。
水稲を中心とした日本の農業は、養分を含んだ水の源である豊かな森林に支えられてきましたが、このような森林の荒廃は、沿海の漁場にも悪影響をもたらします。
さらに、家畜のふん尿に由来する硝酸性窒素などの有害物質をはじめ、農林業、ひいては、人間活動全般から放出される化学物質は、その多くが海に流れ込み、魚介類などの海洋生物に蓄積しています。そして、食品として、私たちの元に循環して戻ってくるわけです。
善循環への転換
このような悪循環を断ち切り、自然産業が持つ本来の善循環へと転換してゆくためには、その原因を川上から無くしてゆくことが必要です。そして、そのような取り組みが、有機農業であったり、また、林業においては、持続可能な森林管理と呼ばれているものです。
さらに、林業から生産される木炭や木酢液、木灰などが、土壌改良や害虫駆除の資材として農業に活用されたり、漁村の人々が漁場を育む川上の山に植林をする運動に象徴されるように、農林水産業が相互に関わりあいながら、国土の安全保障に向けた、善循環へつなげてゆくことが可能です。
歴史的に見れば、こうした循環型の産業のあり方は、日本人にとって、目新しいものではありません。むしろ、戦後、高度成長の中で失われてきたものの中に、そのヒントが隠されているともいえます。