1.医・食・住と生命の安全保障
めぐる化学物質汚染
私たちの医・食・住には、さまざまな有害化学物質が潜んでいます。
例えば、輸入小麦粉で作られた学校給食のパンからは、ポストハーベスト農薬として使用された有機リン系の農薬が検出されています。一方、有機リン系農薬のマラチオンは、環境ホルモン(内分泌撹乱化学物質)の一種でもありますが、私たちの食を汚染している農薬は、実は、住宅にも使用されています。防腐や防虫の目的で使用される木材保存剤や床下のシロアリ駆除剤などがその例です。また、養殖場で殺菌剤として使われ、養殖フグやエビに残留しているホルムアルデヒド(ホルマリン)には、発ガン性などの毒性が指摘されていますが、住宅の合板や壁紙の接着剤にも含まれていて、室内空気を汚染します。
医療の現場でも、抗生物質の多用は、抗生物質耐性菌の出現などの問題につながり、また、プラスチック製品を含む医療廃棄物は、新たな環境汚染を引き起こしています。
つまり、有害化学物質は、医・食・住に共通して潜んでいると同時に、食べ物や大気を通じて循環しながら、複合的に私たちの健康に悪影響を及ぼしているのです。
住まいと食品に共通して含まれる有害化学物質
毒性物質 | 毒性 | 住宅 | 食品 |
---|---|---|---|
ホルムアルデヒド | 発ガン性 皮膚・目・粘膜刺激 真珠貝・カキ養殖被害 | 接着剤・合成樹脂 クロス・断熱材 合板・構造用集成材 | 養殖のフグ・エビに 残留 |
トルエン | 中枢神経の麻痺 皮膚・目の刺激 ぜんそく | 塗料の有機溶剤 接着剤 木材保存剤 | |
キシレン | 中枢神経の麻痺 | 塗料の有機溶剤 接着剤・木材保存剤 可塑剤の原料 | |
木材保存剤 | 有機リン系・塩素系 殺虫剤(神経毒) ピレスロイド系殺虫剤(発ガン性)など | フローリング・土台 | 食品に吸着・残留 輸入穀物の ポストハーベスト農薬 |
可塑剤 (柔らかくする) | フタル酸エステル類(発ガン性) 有機リン系(神経毒) | 塩化ビニールクロス カーテンの難燃剤 断熱材・接着剤 | 学校給食パンに残留 (クロルピリホスメチルなど) |
シロアリ駆除剤 | 有機リン系・塩素系 殺虫剤(神経毒) ピレスロイド系殺虫剤 | 床下や室内の木材 土壌 | 食品に吸着・残留 輸入穀物の ポストハーベスト農薬 |
脅かされる健康と生命
これらの化学物質の毒性は、量が少なければ安全というものではありません。
もちろん、ヒ素や水銀中毒のように、化学物質を大量に摂取すれば、急性の中毒を起こし、場合によっては死に至ります。しかし、それには至らない量であったとしても、皮膚炎やぜんそくなどのアレルギーの原因になったり、さらに、ppm(100万分の1)やppb(10億分の1)という微量でも、化学物質への慢性的な暴露は、頭痛やめまい、倦怠感など、「化学物質過敏症」と呼ばれる健康被害を引き起こします。
また、環境を汚染した化学物質が、私たちの体内で、ホルモンに似た働きをし、精子減少など生殖機能や免疫系に障害をもたらすという環境ホルモン(外因性内分泌撹乱化学物質)は、ppbやそれよりも少ないppt(1兆分の1)という超微量で作用します。
子孫の存続を脅かしかねないという環境ホルモンの問題は、私たちの暮らしや環境を汚染した化学物質が、その量に関わりなく有害であること、そして、むしろ、その量が少ないほど、次世代を含めた生命の安全保障という観点からは、重大な毒性を発揮する、ということを明らかにしたといえるでしょう。
化学物質に頼らない暮らしへの転換
目先の利益や便利さではなく、「生命の安全保障」を中心に、私たちの医・食・住を変えてゆくために、化学物質に頼らない暮らしを目指すことが必要です。
デンマークでの研究では「一般人の精子数は、有機食品を食べている人の約半分」(『食品と暮らしの安全』107号)という結果も報告されています。これは、食品の残留農薬と精子減少の直接的な因果関係を示すものではありませんが、農薬や化学肥料を使用せずに栽培された有機農産物を選択的に食べたり、家を建てたりリフォームする際は、プラスチックや薬品浸けの建材を使用せず、環境にも健康にも負荷をかけない住まい作りをしてゆくことなどが、環境ホルモン対策の上でも有効であることを示唆しています。
また、むやみに医薬品を服用するのではなく、こうした安全な食や住まいこそが健康につながるという観点に立ち、生活全体を変えてゆくことが大切なのです。